一般社団法人日本飼料用米振興協会      

2015年4月号 農文協 現代農業「主張」 


農文協の主張 現代農業掲載


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現代農業 2015年4月号

飼料米・飼料イネで

稲作農家も畜産農家も地域も得するには
DVD「飼料米・飼料イネ」にみる「本気」と「技術」

目 次
◆「本気」になれない事情もあるが;
◆稲作農家にとってのメリット
◆メリットを大きくする稲作農家の工夫・技術
◆畜産農家にとってのメリット
◆交付金が地域から生まれるお金を増やす


「本気」になれない事情もあるが;

 今年、2015年は飼料米・飼料イネの拡大・定着にむけた動きを本格化させられるどうか、正念場の年である。「あのとき、飼料米・飼料イネに力を入れたからこそ、日本の田んぼと畜産、地域が守られた」、後世にそんな評価を残す、そんな年にしたい。それには「本気」と「技術」が必要だ。

 農文協ではDVD『つくるぞ、使うぞ 飼料米・飼料イネ』(全2巻)を発行した。「つくるぞ、使うぞ」と本気度を込めたが、このDVDの普及活動のなかで、「待ってました」と歓迎していただく一方、本気になれない事情もいろいろいろとお聞きしている。

「飼料米を破砕したりする労力が大変。その手間や破砕する機械などのことも考えると肥育農家が使いたがらない」という普及員。「集出荷が問題になる。飼料米をやりたい人の相談にはのるが、研修や推進みたいなことはやらない。やれば、飼料米はJAで集めてくれるのかという話しになるから」というJA職員。飼料米の乾燥調製を受け入れるかどうか迷っている農協も多く、他県の流通の様子を聞かれることも多い。

 もちろん、「ここは本気にならなければ」と考える農家も増えている。

「飼料米は生産と需要が近くでないとコストとして合わないだろう。とはいっても、今の米価ではいずれやれなくなるので耕畜連携は考えている。経営の中に養鶏を取り入れるのもよいのかもしれない」と秋田県の大規模稲作農家。

 飼料米・飼料イネについては県、JA、市町村、そして農家による温度差が大変大きい。北海道を含め独自に交付金を上乗せする県や、流通・保管を積極的に進めるJAもあれば、そうでないところもある。

 考えてみれば当然だ。畜産農家の減少を伴った輸入飼料中心の畜産、減反・増収に燃えにくい稲作、そして畜産と耕種の隔たり、その歴史は長い。小規模で簡単に進める方法もあるが、地域的な取り組みにするには、増収技術、飼養技術、さらに運搬、加工、保管まで、それなりの仕組みと方法を確立しなければならない。

「本気になれない」背景には、「交付金がいつまで続くか」、「TPPの妥結で畜産農家がさらに減り、飼料米も需要が減っていくのではないか」という不安もある。財界やアメリカの意向を受けてTPP妥結をめざす安倍政権が、飼料米振興に本気なるとは思えない。飼料も畜産物も輸出したい農業大国のアメリカとオセアニアに日本の農産物市場を開放しようとするTPPに固執する限り、彼らは、飼料自給も日本の風土にあった畜産の未来も描くことはできないのである。

 一方、農水省では、来年度からの「新たな食料・農業・農村基本計画」の策定にむけて検討を進め、先の「食料・農業・農村政策審議会」の企画部会が示した骨子では、米の需給安定の鍵を握る飼料用米、米粉用米、麦、大豆などの転作作物について、直接支払交付金などで、品目ごとの生産努力目標の「確実な達成」を目指すと明記した。農政の中長期指針となる基本計画で飼料用米への支援を明確に位置付けたわけだ。最高で反当10万5000円になる飼料用米の助成金(交付金)に財政当局が削減姿勢を示したことで生産現場の不安が高まっているが、同省は「将来展望を持って生産拡大できるよう、生産現場へのメッセージとして書いた」と説明している。もっとも最近、農政の本流とはかけ離れた、規制改革会議などの過激な意見を重宝する「官邸農政」が力を強めており、予断を許さない。

 だからこそ、本気になって飼料用米の拡大・定着を進め実質をつくる。助成金がでるからではなく、現場の力で農政をまともにしていく。

 これを応援するために、各地の農家の「本気」と「技術」を盛り込んでDVD『つくるぞ、使うぞ 飼料米・飼料イネ』をつくった。ぜひ、映像をみていただき、それぞれの本気度と技術を肌で感じていただければと思う。仲間で上映して、自分たちのところでどうやるか、「本気」の議論を楽しく進めてほしい。


稲作農家にとってのメリット

 このDVDの「飼料米編」では、前半部「飼料米利用で地域が変わる」で2事例、後半部「栽培・給与の技術」で稲作4事例と鶏、豚、繁殖牛、酪農の畜産4事例を紹介した。まず、稲作農家にとっての飼料米のメリットをみてみよう。

▼DVDのトップに登場する山口市・秋川牧園飼料米生産者の会19軒の面々は、ニワトリ用に北陸193号という専用多収品種で1tどり、交付金満額をめざす。「900kgっちゅうと不足ですね。ハッハッハ」といつもトップクラスの農家、「今年は先輩をおびやかすくらいにはなるはず。800は余裕でいくっしょ」とは稲作新人の農家、そんな熱気が画面いっぱいにあふれる。

 経営面積140町の農業法人農家の声。

「刈り渡し金が1等で8100円。米の直接払いが1万5000円から7500円に。主食用米では、なんぼ法人でもやっていけんようになりますね。もう米は加工用米か、いまの飼料米が主力になってくると思うね」

 カネ目もあるが、メンバーが夢中になる一番の理由は、どれほどとれるかワクワクするような豪快なイネの姿。

「こらすっごいなと思った。こんなイネもあるのかな」と意気投合したのだ。

 会では、メンバーで圃場巡回を行ない、収量ベスト3の人には表彰状と金一封を出し、20年来の耕作放棄地もみんなで複田してしまった。所得確保+増収の醍醐味+耕作放棄地の解消、飼料米のメリットは計り知れない。

 ▼2番目に登場する新潟県の魚沼市自給飼料生産組合。魚沼といえば、言わずと知れた日本一のブランド米産地だが、今、飼料用米の産地としても注目の的、続々と視察者が訪れている。飼料米66ha、飼料イネ46haを約400軒の農家が栽培、その数、年々増えている。エサとして使うのは地域の酪農家四4軒、搾乳牛は130頭。

 稲作農家が栽培するのは、飼料米・飼料イネともにコシヒカリ。コンタミ問題など専用品種ではやりにくいからだ。

あらかじめ決めた転作面積分の収量を飼料米としておさめることで転作にカウントする。この場合、交付金は一律反当8万円だが、経営の中心であるブランド米を守りつつ、手間をかけずに転作でき、そのうえ、いままでお金にならなかった転作で稼げるようになった。

 山間の湿田が多い魚沼では、転作作物がうまく育たず、これまで一部ではソバをつくったりしていたものの、ほとんどは調整水田にしてお金にならないのが一般的だった。しかし、飼料米・飼料イネなら、田んぼのまま転作できる。

 飼料米は、販売代金と交付金とで約九万円。飼料イネだと、耕畜連携やソバとの二毛作助成金なども合わせて12万円以上になる。魚沼コシヒカリでも、最近の米価では13万円くらいのこともある。

 お金にならなかった転作で、メインのコシヒカリなみに稼げるのが最大のメリットだ。


メリットを大きくする稲作農家の工夫・技術

 こうしたメリットを最大限に生かす工夫もいろいろ生まれている。DVDの後半部で紹介した稲作農家の工夫は次のようだ。とにかく手間、金の節約に徹する。

▼秋川牧園飼料米生産者の会の海地博志さんは、鶏糞堆肥+「への字」稲作で1tどりをめざす。専用多収品種・北陸193号の特徴は、ビンビン立つ長い止葉、ひと穂平均160粒を超える大きな穂、本数は少なめだがどんなに肥料をやっても倒れない太い茎。これで多収する秘訣は茎数を抑え、確実に大きな穂をつけ稔りをよくすること。そこで「への字」稲作が威力を発揮する。元肥は鶏糞堆肥のみで初期をゆっくり生育させ、そして2回の追肥で生育中期の肥効を高める。肥料はもっぱら安い尿素。

 収穫にもコツがある。収量第一なので、刈り取りはやや遅めにし、止葉の色が抜け、モミの水分が19%くらいになるまで待つ。登熟期間を長くとることで収量も上がるし、よく乾く分、乾燥代も安くなる。エサにするので、刈り遅れによる胴割れなどは問題にならならない。

 茎が太い専用品種ではコンバインが痛むと心配する声もあるが、走行ギアを低速にして15〜20cmの高刈りにすると、太くて硬い茎もスムーズに刈ることができる。

 ▼青森県のSGSフロンティア十和田は4人のUターン農家と繁殖牛農家1軒で結成した飼料米の生産者グループ。ここでは、鉄コーティング直播+深水で手間をかけずとことん低コストを実現している。

 鉄コーティング直播の専用機による播種作業が映し出されるが、作業はめちゃくちゃ速い。
 「もう少し調子いいば、1反歩6分で終わる」
 経費も安い。タネと鉄を買って自分でコーティングすると反当6500円ですむ。直播で問題になる雑草は深水で防ぐ。重い鉄でコーティングした種モミは浮かないので、水を溜めた田んぼに播くことができ、同時に散布する除草剤を効かせやすいのだ。鳥害にも強いという。

 収量は八俵前後、多収とはいえないが、生モミのまま加工するSGS(モミ米サイレージ)なら交付金は一律8万円。乾燥・モミすり代がかからないのが魅力だ。

 ▼埼玉県熊谷市で養豚向けの飼料米(超多収品種の「夢あおば」)をつくる小林眞さんは、多収に欠かせない穂肥、実肥の2回の追肥を流し込み追肥で行なう。肥料は尿素、DVDでは、液肥のつくり方から広い田んぼでもムラなく肥料をいきわたさせる方法が映しだされる。反収は玄米で700kg、数量払いの最高額を余裕でクリアだ。

 ▼埼玉県熊谷市、米麦二毛作に取り組む中条農産サービスでは、麦間直播きで超低コスト10俵どり。品種は超多収品種のタカナリ。ムギの間にイネの種モミを播くのは4月上旬から。このやり方なら出穂も早く大きな穂が稔る。育苗いらず、田植えいらず。これで二毛作助成と数量払いの交付金も確実にいただく。

 播種機は、汎用型不耕起播種機を使用。肥料も同時施用。反当6キロ播くだけで1平方m当たり100本くらい芽が出る。麦刈りのとき、イネはコンバインにガンガン踏まれるが、「踏んでもちゃんと起きて、大丈夫」だという。

畜産農家にとってのメリット

 ▼兵庫県加古川市の養鶏場、株式会社オクノの奥野克哉さんはモミ米の2割配合で、おいしいブランドの卵、地卵をつくる。モミ米配合で卵の「アミノ酸の組成が若干変化してきて、白身に粘りや甘味がましてきた」と奥野さん。卵かけごはんにしてご飯と混ぜると、「空気をふくんで、フワーッとふわふわになってくる」。この卵かけご飯を売りに、食堂まで開店した。食堂のほか、1万5000羽の卵は、すべて直売や契約販売で売り切れる。そのうえ、エサ代は、年間で100万円以上の削減だ。

 飼料米は、地元の稲作農家や営農組合8軒がつくり、農協を通して奥野さんが購入。鶏糞は稲作農家に提供する。飼料米の配合割合は17.5%。地元の田んぼ25haでとれる飼料米をすべて使ってこの割合で、まだまだ増やせると奥野さん。25%まで配合して試験したところ、産卵率などまったく問題なかった。

 モミ米は保管もラク。収穫後、水分14.5まで乾燥してフレコンで持ってきてもらい倉庫に積んでおくだけ。

「地元のお米使ってますよ」「誰誰さんがつくったお米です、と卵の説明に加えることで、お客さんは、より親近感を持ってくれる」という。なにより、遠い存在だった地域の稲作農家が「おんなじ仲間」になったのがうれしい。

 ▼母豚130頭、年間2600頭出荷する山形県のいずみ農産では、飼料米の破砕玄米を13%混合。

 元気でキレイな豚たちが映しだされる。

「完璧完璧。みな丈夫そうでしょ」

「格付けなんかはぐっとよくなってるし、出荷日齢も縮まって相当プラスになっている」

 肉屋さんも「芯も大きいし、芯にもサシが入っていて油の色も真っ白、最高の豚です」と絶賛。

 エサの値段は、配合飼料のキロ50円に対し、自分たちでつくる破砕玄米は35円。15円も下がった。

 破砕玄米を配合飼料に混ぜるやり方も簡単だ。配合肥料のバルク車の上部に破砕玄米入りのホッパーを持ち上げ、投入口から入れるだけ、混ぜる必要もない。メーカーで飼料米を混ぜてもらうよりよっぽどいい。この「ちょい足し」方式ならだれでもできる、と斎藤一志さん。

 ▼先に紹介したSGSフロンティア十和田の代表で繁殖牛23頭飼う福澤秀雄さんは、ほぼ全量を飼料米のSGSに置き換えた。エサ代は年間60万円ほど。以前は240万円くらいはかかった。牛も変わった。「以前は、遠慮して食わせなきゃならない状態。この伸びは出てこなかった」という。1年1産、繁殖成績も良好だ。

 福澤さんが使うSGSは、生モミを砕いて乳酸発酵させたもの。軽く砕いた生モミに乳酸菌と水を加えつつ水分30%に調整。内袋付きのフレコンに入れて空気を抜き、密閉しておくだけで乳酸発酵が進んで2カ月で完成。乾燥代もモミすり代もかからない。破砕機さえ1台あれば簡単につくれる。牛が喜んで食べてくれるし長期保存ができるのもいい。屋外で2年間は保管できるという。

 ▼最後に酪農の場合。魚沼市自給飼料生産組合の酪農家、大平敦さんは飼料米、飼料イネを使ってエサの自給率がほとんど0%から70%になり、乳餌比(乳代に対するエサ代の比率)は70〜80%から50%まで下がった。乳価キロ90円、年間乳量9000kg、乳餌比30%ダウンとすると年間のエサ代節約分は90円×9000×30%で24.3万円。20頭なら486万になる。

交付金が地域から生まれるお金を増やす

 当然、地域にとってもメリットが大きい。魚沼市自給飼料生産組合の場合、稲作農家全体(400戸)では、飼料米66haの収入が交付金8万円+飼料米販売代金1万340円として約5960万円、飼料イネ46haでは、交付金8万円+販売代金1万5000円、二毛作奨励金1万5000円、耕畜連携助成金1万3000円として5660万円、合計で1億円超。酪農家全体では搾乳牛130頭、乳餌比30%ダウンとすると3159万円の収入増となる。

 米価下落、乳価低迷・エサ高で冷え込む地域にとって、この収入は大きい。その大半は交付金によるものだが、飼料米の販売代金682万円、飼料イネの販売代金690万円、これに酪農家のエサ代節約分を合わせた約4500万円は、飼料自給によって地域が生んだお金だ。交付金が地域から生まれるお金を増やす。

 魚沼では、農協が強力にサポートしている。JA北魚沼では営農指導や事務処理はもちろん、集荷、保管、破砕作業から運搬まで請け負っている。

「農協が儲かるっていう話ではないが、耕種農家が国からの助成金を獲得しやすい状況をつくるとか、酪農の方々が飼料高騰の中で少しでも儲かるってことが、ひいては農協のメリットになるのかなって思います」

 餌の配合技術やその適否判断に役立つ血液検査、乳質検査など、研究機関や指導機関の役割も大きい。そんな地域一体的な取り組みが、メリットを大きくする。

 DVDで紹介したのはいずれも地域の稲作と畜産が結びついた事例で、やはり稲作農家と畜産農家の距離が短いほどメリットが大きくなる。近くに畜産農家がいないなど、メリットを出しにくい地域もある。しかし、やりようはあるに違いない。そのために何ができるか、みんなで知恵を出し合う。そのきっかけ、場づくりにこのDVDに登場する農家の「本気」と「技術」が大きな刺激になるだろう。

(農文協論説委員会)

このDVDのテキストとして、「別冊現代農業」『とことんつくる使う 飼料米・飼料イネ』、そして「飼料米の大義・米増産の国民的価値を鮮やかに描いた不朽の名著」として、『「新みずほの国」構想 日欧米 緑のトリオをつくる』を復刊した。あわせてご活用いただきたい。



掲載号

メインタイトル

サブタイトル

2015年4月号

飼料米・飼料イネで稲作農家も畜産農家も地域も得するには

DVD「飼料米・飼料イネ」にみる「本気」と「技術」

2015年3月号

多面的機能支払・飼料米を活かして、雑草で元気になる


2015年2月号

2015年 イネと田んぼを元気の源泉に


2015年1月号

地域の総力で田園回帰時代をひらく

ほんとうの「地方創生」とはなにか

「現代農業」の紹介







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「新みずほの国」構想
     出版社 農文協
著者 角田重三郎
解題T 井上ひさし
解題U 山下惣一
解題V 加藤好一
 ※ 生活クラブ連合会長
   当協会 運営委員
        

食の戦争
     出版社 文春新書
著者 鈴木宣弘
 ※ 東大大学院農学部教授



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